朝の光が、カーテンの隙間から細く差し込んでいる。
いつもなら気持ちのいいはずの光が、今日は少しつらい。
時計の音も、冷蔵庫の小さな音も、誰かの話し声も。
いつもなら気にならないものが、今日はやけに大きく感じる。
頭の片側が、脈を打つように痛む。
「また、来た」
そう思った瞬間から、その日の予定が少しずつ遠ざかっていく。
仕事はどうしよう。
約束は断ったほうがいいだろうか。
家事くらいはしなければ。
そんなふうに考えているうちに、痛みだけではなく、予定を失っていくような気持ちになることもあります。
片頭痛は、単なる「ひどい頭痛」ではありません。
片頭痛は、頭だけの病気ではない
片頭痛は、脳や神経の働きに関係する疾患です。
代表的な症状は、ズキズキ、ドクンドクンと脈打つような頭痛。
片側に起こることが多いものの、両側が痛むこともあります。
吐き気や嘔吐、光・音・においへの過敏さを伴うこともあり、身体を動かすと痛みが強くなることがあります。発作は数時間から数日続くことがあります。
だから、片頭痛の人にとっては、
「ちょっと頭が痛いだけでしょう」
という言葉が、つらく感じられることがあります。
痛みが見えないからといって、その人が元気とは限りません。
暗い部屋で目を閉じているのは、怠けているのではなく、刺激から身体を守っている時間なのかもしれないのです。
「痛くなる前」に、すでに始まっていることがある
片頭痛には、頭痛が始まる前から変化が現れることがあります。
眠くなる。
あくびが増える。
疲れやすい。
首や肩がこる。
気分が変わる。
特定のものが食べたくなる。
人によっては、こうした変化が数時間から数日前に現れることがあります。
さらに、一部の人には「前兆(オーラ)」が現れます。
視界にギザギザした光が見える。
きらきらしたものが見える。
手や顔がしびれる。
言葉が出にくくなる。
こうした神経症状は通常、5~60分ほどで完全に戻ります。前兆はすべての片頭痛に起こるわけではなく、前兆がない片頭痛もあります。
つまり、片頭痛は突然「痛みだけ」がやってくるとは限りません。
その前後にも、身体から小さな知らせが届いていることがあります。
「何が原因?」と探しすぎなくてもいい
片頭痛について調べると、
睡眠不足。
空腹。
ストレス。
気圧の変化。
光やにおい。
月経などのホルモン変化。
さまざまな「誘因」が出てきます。
ただし、すべての人に同じものが当てはまるわけではありません。
「これを避ければ片頭痛は起こらない」という単純なものでもありません。
だからこそ、必要以上に生活を制限するより、
「自分の場合は、どんなときに起こりやすいのか」
を知っていくことが大切です。
頭痛が起きた日。
眠った時間。
食事をした時間。
月経との関係。
天候。
その日の忙しさ。
薬を使ったかどうか。
簡単な頭痛日記をつけてみると、自分なりの傾向が見えてくることがあります。頭痛の日数や症状を記録することは、診断や治療方針を考えるうえでも役立ちます。
我慢することだけが、選択肢ではない
片頭痛が起きたときには、急性期の治療で症状を和らげる方法があります。
また、頭痛の回数が多い場合や生活への影響が大きい場合には、発作そのものを減らすことを目的とした予防療法が検討されることもあります。
治療は一つではありません。
薬だけでなく、生活習慣の見直しや、症状に合わせたさまざまな方法を組み合わせていきます。
「頭痛くらいで病院に行っていいのかな」
そう迷う人もいるかもしれません。
けれど、片頭痛によって仕事や家事、外出、人との約束などに影響が出ているなら、それは相談する理由になります。
痛みを我慢できるかどうかではなく、
「その痛みによって、自分の生活がどれくらい変わっているか」
という視点で考えてみてもいいのです。
「いつもの片頭痛」と違うときは
片頭痛と診断されている人でも、いつもと明らかに違う頭痛には注意が必要です。
突然、これまで経験したことのない激しい頭痛が起こった。
急に痛みの性質が変わった。
片側の手足に力が入りにくい。
意識がおかしい。
言葉がうまく出ない。
視覚の異常が続く。
前兆のような症状が長く続いたり、完全に戻らなかったりする。
このような場合には、片頭痛だと自己判断せず、速やかに医療機関へ相談する必要があります。
片頭痛の痛みは、外からは見えません。
だからこそ、本人にしかわからないつらさがあります。
楽しみにしていた予定を断ること。
暗い部屋で静かに過ごすこと。
「また起こったらどうしよう」と、次の痛みを気にすること。
それもまた、片頭痛と暮らすということなのかもしれません。
けれど、片頭痛があるからといって、人生のすべてを痛みに合わせなくてはいけないわけではありません。
自分の症状を知る。
早めのサインに気づく。
必要なときには治療を受ける。
そして、周りの人にも「今は少しつらい」と伝えていい。
窓の外がまぶしい日は、カーテンを少し閉めてもいい。
静かな場所で休んでもいい。
痛みが過ぎるのを待つ時間も、あなたの一日の一部です。
やがて雲が流れるように、痛みが遠ざかる日がくる。
そのとき、また少しずつ光のある場所へ戻っていけばいい。
片頭痛とともに暮らすことは、
痛みに負けないことではなく、
痛みがある自分の身体を、置き去りにしないことなのだと思います。